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教育にエビデンスを!中室牧子【「学力」の経済学】

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

最近注目の中室牧子氏

筆者の中室牧子氏は慶應義塾大学卒業し、コロンビア大学で博士号取得。その間世銀でのインターンや日本銀行で勤務されたのちに現在は慶應義塾大学准教授として働かれている方です。専門は教育を経済学的な観点からアプローチする教育経済学。

教育は私たちにとってとても身近なものであり、多くの人が関心を寄せる分野です。だからこそ、教育について私たちはそれぞれの持論や意見を持ちやすく、また誰かの成功事例をそのまま鵜呑みにしやすいのも事実です。本書ではこの点について

不思議なもので、教育という分野に関しては、まったくといっていいほどの素人でも自分の意見を述べたがる

と表現し、政治経済についてはその道の専門家の意見が重んじられるのに対し、教育については専門家ではない人々でも声を大きくして自分の意見を主張すると指摘しています

教育政策に科学的な根拠が重要視されていない現実

日本ではまだ教育政策に科学的な根拠が必要だという考えが浸透しておらず、極端な事例や特別な成功例だけを参考に、学校教育や家庭教育が行われています。しかし中室氏はこうした状況に対し、

どこかの誰かが子育てに成功したからといって、同じことをしたら自分の子どもも同じように成功するという保証は、どこにもありません。

と強く述べ、教育にこそ科学的なエビデンスが必要だと強く主張して追います。

本書の中では、「子供は褒めて育てたほうがいいのか」「ゲームはやらせていいのか」という身近な話題から始まり学校教育政策に至るまで、さまざまな実験を通じて得られた科学駅な結果を示すことで、今までエビデンスのなかった教育の「一般論」に対して警鐘を鳴らしています。

学力の経済学とはつまるところ人的資本論

世界銀行でのインターンや日銀で勤務していた背景が筆者に影響を与えたと思われますが、英国や米国では、このように教育を投資と考え、どこに投資することでリターンが大きくなるかという人的資本アプローチに対する批判も多くなされてきたのも事実です。

たとえば教育経済学の理論のみで教育をとらえると、障がい児や高齢者など、教育投資に対するリターンが必ずしも大きくないかもしれない分野には投資すべきでないという結論が出てしまいます。しかしながら中室氏はこうした教育経済学への批判も理解しながら、エビデンスベースの教育はそれ自体が目的ではなく、より良い教育を実現するためのツールであるべきだと言っています。

教育経済学を身近に、わかり易く普及させる良書

日本はまだまだ科学的な根拠に基づく教育学が理解を得られない、政策に活かされない現状がある。本書はその現状を打破するために、教育経済学をより身近に感じれるようにという中室氏の思いが込められているのでしょう。