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指導者は言葉によって人を導くー徳善義和 【マルティン・ルター――ことばに生きた改革者】

 

マルティン・ルター――ことばに生きた改革者 (岩波新書)

マルティン・ルター――ことばに生きた改革者 (岩波新書)

 

 宗教改革者としてあまりにも有名なルターの生涯を簡潔に、そして「言葉(聖書)に生きた」という面白い表現で描かれているルターの評伝。

既存のキリスト教に対して葛藤し、苦悩し、ことばの真理を求めた若かりし頃のルターの様子はとても印象的。
特にルター自身が【十字架の神学】と呼び、「十字架のみが我々の神学である」と悟ったその内容はとても感動的だ。
当時中世のキリスト教社会はギリシャ文化の影響をを大いに受けており、【栄光の神】を中心に構築された神学だった。
しかしルターは無残なキリストの姿こそが神が人間に与える義であり、およそ栄光とはかけ離れたみじめで無残なイエスの姿こそ神の恵みと認める神学を打ち立てた。
このルターの悟りは塔の体験と呼ばれ、この悟りがきっかけとなって宗教改革が進んでいく。
宗教改革者としてのルターの、彼がなぜ宗教改革を行うようになったか、そしてどのように展開していったか、そういった内容がルター専門家である著者によって興味深く描かれている。
 
イエス・キリストが愛と言葉でもって民衆を率いる中で、民衆がイエスに求めたものとイエスが本当に成し遂げたかったことの間にある隔たりによってイエスが苦悩したように、ルターもまた自身と民衆との間に望むものの違いを感じて苦悩したのではないか。
 
いつの時代も、指導者は言葉によって人を導くが、追随者は指導者の望むことを必ずしも望んでいるとは限らないのだ。