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人間の安全保障は人間が持つべき普遍的な権利ーアマルティア・セン【人間の安全保障】

 

人間の安全保障 (集英社新書)

人間の安全保障 (集英社新書)

 

 戦後、疲弊したアジアを復興させるために既存の経済成長戦略ではなく、人間を中心とした経済政策の転換を説いたセン博士はアジアで初のノーベル経済学賞を受賞した。

「人間の安全保障」という概念を提唱・定着させたセン博士は、これまでの国家の安全保障のみならず人間そのものが安全を脅かされないための権利を持つと主張する。
 
本書では人間の安全保障を教育、グローバル化、民主主義、核爆弾、環境問題など様々なテーマと絡ませながら論じていく。人間の安全保障は人間が持つべき普遍的な権利なのか、人権をどのように理論的に構築できるのか、などが本書の読みどころだと思う。
個人的には教育に関心があるため、第1章での教育分野に焦点を当てた論述は非常に興味深かった。
セン博士が途上国に基礎教育が必要とされる理由に①基本的な人権という側面と②不利益を被るリスク回避という側面から言及する着眼点は特に面白い。
単に人間が誰でも持つべき基本的人権という側面だけでなく、不利益を被るリスク回避にまで目を向けることで同じ教育開発でも取り組みに多少の違いが生じる。
基本的人権の一つとしての側面のみで教育援助を考えると、形だけの教育支援に終わる可能性がある、学校を建て、子どもたちを通わせたものの識字率の向上が見られないなどの原因もここにある。一方で社会において不利益を被らないための教育開発とすれば、その成果も方法論もより具体化されると思う。
 
またセン博士のグローバル化の考え方も説得力がある。
グローバル化が良いか悪いかという議論ではなく、そのグローバル化の最中に会ってどのように分配の問題に取り組むかに焦点を当てるべきかという着眼である。
グローバル化を否定する人の中にはグローバル化=西洋化という主張をする人もいるが、西洋文明の発展は中国文明やインドの数学的発展などを基礎としたものであり、彼らがそれらを取り入れてきた結果なのであり、我々も西洋の発展をどのように取り入れていくが重要であるという主張には大いに納得できる。